閉め忘れたパンドラの箱―2



想像の中で美化された
その実体を見た時
想像と現実との落差が
現実のその実体を
卑小なものに見せてしまう


・・・と始まる
1冊目の制作ノート
「渾然一体の雑記帳」

第1期作品群
作品No.0001~No.0030
昭和47年8月3日~同年10月31日
時代的には「詩の黎明」

第2期作品群
作品No.0031~No.0139
昭和47年11月1日~昭和49年4月8日
時代的には「Yの黎明」

第3期作品群
作品No.0140~No.0156
時代的には「忘却のY」
年代不明

第4期作品群
作品No.0157~No.0245
時代的には「幻想のY」

第5期作品群
作品No.0246~No.267
時代的には「前Yの回想」

第6期作品群
作品No.0268~No.0300
時代的には「現実のY」
~1978年7月28日(金)

第7期作品群
作品No.0301~No.0335
1978.7.8~1978.10.19
時代的には「Yの終焉」



第8~第9期は
■作品No.364に書いたので省略


第1期~第7期は「Y」の時代

1978.10.19 Yの終焉が確定した瞬間
夜空を見上げた私
その瞬間に生まれた童話が
ハモニカの星


ユキちゃんの可愛いいお顔から
およそ「ほほえみ」というものが消えて
もう 3ヶ月が過ぎようとしていました

お庭にコスモスの花が咲いても
ユキちゃんには わかりません
だって ユキちゃんは
それを見ることができなかったから

あの日 パパと一緒にドライブ
乱暴なダンプと衝突して
頭を打ったユキちゃんは
一時的に失明してしまったのです

おまけにパパは
国道沿いのお地蔵様に
なってしまったのです

お医者様は3ヶ月もすれば直るって
いってくださったのに
ユキちゃんの目は
何時までたっても直らないのでした

そんな ある日のことでした
ユキちゃんはママにおねだりしました
「ママ、わたし カスタがほしい。」

ママはすぐに 
赤と青のカスタネットを
買ってあげました

なぜ ユキちゃんがカスタを
おねだりしたかですって?
それは あのハーモニカの為なのです

最初 その音色が聞こえたのは
もう 一ヶ月以上も前のことでした
どこからともなく
その ハーモニカの音は聞こえてくるのです

最初 その音色が聞こえたのは
もう 一ヶ月以上も前のことでした
それから 毎晩 きまって8時頃になると
それは 聞こえてくるのです

一週間もしないうちに
今度は また どこかの誰かが
そのハーモニカに合わせて
ギターを弾きはじめました
そして・・・

チカタン チカタン
カスタは ユキちゃんです
タカタン チカタン
遅くなったり 速くなったり

ユキちゃんは まだ小さいから
ほかの楽器は ひけなかったのです

ハーモニカさんの曲は
毎晩 変わらない曲でした
それが「オールド・ブラックジョー」だとは
ユキちゃんは 知りませんでした

ある晩 ユキちゃんは
誰が楽器を弾いているのか
知りたくって 知りたくって
たまらなくなりました

でも 小さいユキちゃんは
夜おそくに お外に出ることは
できないのです
「しりたいな。」とユキちゃんは呟きました

次の晩も その次の晩も
ユキちゃんは やっぱり
誰が弾いているのか
知りたくってたまりませんでした

そこで ユキちゃんは
ママにたのみました
「ママ わたしを楽器の音の所へ連れてって。」

やさしいママは ハーモニカの
音がはじまると ユキちゃんと
一緒に外にでました
そして二人で音の方へ歩いて行きました

もちろん ユキちゃんは
カスタを たたきながら
チカタン チカタンと
ママの横について行きたかったのですが
ママと手をつないでいるので
手にカスタをはめていても
たたけませんでした

「ママ おんぶ。」
ユキちゃんはママにおんぶしてもらって
カスタをたたきながら
音のする方へと向かっていきました

ギターさんは すぐに見つかりました
アパートの大学生のお兄ちゃんです
ママがお兄ちゃんに言いました
「あなたも一緒にさがしに行きませんか。」

今度は 三人でさがしました
三人はハーモニカの音のする方へ
歩いていきました

それはクリーニング屋さん二階からでした

クリーニング屋さんの前まで来ると
音を聞きつけたのか おばちゃんが
目を赤く泣き腫らして 出てきました
一体 どうしたのでしょう

「どうか なさったのですか?」
ママが たずねました
すると おばちゃんは言いました
「どうぞ二階へ上がってください。」

二階にはお布団が ひとつ敷いてありました
でも 誰が寝ているのか
顔に白い布がかけてあって
顔がわかりませんでした

ユキちゃんは 布をとろうとしました
すると ママが言いました
「ユキ やめなさい。」
その人は もう亡くなっているのでした

布団のそばには
テープレコーダーがあって
ハーモニカの音は
そこから しているのでした

おばちゃんは言いました
「うちのおじいちゃん 今日の昼ごろ
 亡くなったんです 亡くなる前に・・。」
おばちゃんの声がつまりました

「亡くなる前に このテープに
 ハーモニカの演奏を入れてあるから
 夜になったら流してくれって
 言いましてね・・・。」

「それでは あのハーモニカを
 弾いていらっしゃったのは
 お宅の・・・。」
ママが言いました

「ええ、おじいちゃんは あの曲が
 とっても大好きだったのです
 体が思うように動かなくなってからは
 寝る前に ハーモニカを・・・。」

ユキちゃんには まだ何のことだか
わかりませんでした
「お兄ちゃん この人 どうしたの?」
「遠くへ行ってしまったんだよ。」

「遠くって どこなの?」
ユキちゃんは言いました
「星になってしまったのさ。」
「ふう~ん。わたしのパパといっしょだね。」

ユキちゃんは テープのハーモニカの
音にあわせて カスタをたたき始めました
お兄ちゃんはギターを弾き始めました

テープの音が終わってしまっても
二人は いつまでも 弾き続けました
だってユキちゃんには 
まだ聞こえていたのです
遠い星の世界からのハーモニカの音が
 
そして 今は国道沿いのお地蔵様に
なってしまったパパの声も
「ユキ、がんばるんだぞ。」って・・・

ユキちゃんの
カスタの音が止まりました
お兄ちゃんも弾くのをやめました
ユキちゃんは言いました
「お星様が見たい。」と

ユキちゃんは窓ガラスに
お顔をくっつけました
夜空には たくさんの星たちが
優しく輝いていました
「ママ 見えるわ。
 わたし 見えるわ。」

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安寧の日記(6/20)日々・・・回顧
Excerpt: 作品No.364 から始まる 「閉め忘れたパンドラの箱」シリーズを開始
Weblog: 空気時計を見詰めながら
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