山頭火の日記(1/9)


昭和六年

 一月九日 雨、曇、晴、曇、雨。

起きると、そのまゝで木炭と豆腐とを買ひに行く、久しぶりに豆腐を味はつた、やつぱり豆腐はうまい。
あんまり憂欝だから二三杯ひつかける、その元気で、彼女を訪ねて炬燵を借りる、酒くさいといつて叱られた。
帰家穏坐とはいへないが、たしかに帰庵閑坐だ。
昨夜も今夜も鶏が鳴きだすまで寝なかつた、寝られなかつた。

 お正月の母子(オヤコ)でうたうてくる
 また降りだしてひとりである
 ほころびを縫ふほどにしぐれる
・縫うてくれるものがないほころび縫つてゐる


49歳の山頭火。それまでの概略は・・・

1882(明治15)
現在の山口県防府市に大地主種田家の長男として誕生。本名:種田正一。

1892(明治25)10歳
母(フサ)自宅の井戸で投身自殺(享年33歳)

1901(明治34)19歳
早稲田大学大学部文学科に入学。

1904(明治37)22歳
神経衰弱のため早稲田大学を中退、帰郷。

1906(明治39)24歳
父と「種田酒造場」を始める。

1909(明治42)27歳
佐藤サキノと結婚

1910(明治43)28歳
長男 健 誕生

1916(大正5)34歳
種田酒造場破産。妻子と熊本へ転居。
古本屋「雅楽多」を営む。

1919(大正8)37歳
単身上京

1920(大正9)38歳
妻と離婚

1923(大正12)41歳
関東大震災に遭い、熊本市のサキノのもとに帰る。

1924(大正13)42歳
酔っ払い市電の前に立ちはだかる(自殺未遂?)

1925(大正14)43歳
出家。観音堂の守となる

1926(大正15)44歳
観音堂を出て、行乞放浪の旅に出る
以後 山陰・山陽・四国・九州を行乞

1930(昭和5)48歳
熊本のサキノの元に落ち着こうとするができず
9/9 また行乞の旅に出る
今までの日記を焼き捨てる

画像


もう一度 日記を見ると

・・・彼女を訪ねて炬燵を借りる・・・

彼女とは離婚した妻のことだろうか?
なのに

縫うてくれるものがないほころび縫つてゐる

なんとも侘しいと思ってしまう。


「ほころび」は服ではなく
人生のほころびとも思えてくる。

縫うてくれるものがないほころび

ほころびばかりの人生とも解釈できる。



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底本:「山頭火全集 第三巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年5月25日第1刷発行
   1989(平成元)年3月20日第4刷
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:さくらんぼ
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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