山頭火の日記(1/16)三八九



昭和6年(1931年)
一月十六日曇、やがて晴、あたゝかだつた。

朝、時雨亭さん桂子さんから、三八九会加入のハガキが来た、うれしかつた、一杯やりたいのをこらへて、ゆつくり食べる。……
午後散歩、途中で春菊を買つて帰る、夜も散歩、とう/\誘惑にまけて、ひつかけること濁酒一杯、焼酎一杯(それは二十銭だけれど、現今の財政では大支出だ!)。
唐人街、新市街、どこを歩いても、見切品ばかりが眼について嫌になつちまう、人間がそも/\見切だから詮方もないが、実は旧臘以来、安物ばかり買はされてきたせいだ。

・あたゝかく人を葬る仕度してゐる
晴れて遠く阿蘇がまともにまつしろ(こゝから)
・凩に焼かれる魚がうごいてゐる
捨てられた梅も咲いてゐる
枯れきつてでかい樹だ
・デパートのてつぺんの憂欝から下りる
・星晴れてのんびりと尿する
尿してゐるあちらはヂヤズか

こゝに重大問題、いや/\重大記録が残つてゐた、――それはかうである、――十三日は午後、三八九の趣意書を、どうしても刷りあげるつもりで出て、蔚山町の黎明社へいつた、そこは謄写刷の専門店だ、主人が留守で弟子が一人、その弟子を説きつけて刷りあげた、それを持つて、元寛君へ駈けつけて、そこで四方八方、といつても、面識のある、好意を持つてくれさうな俳友へ配つた、実は手帖を忘れて行つたので、そんな事柄をこま/″\と書きつけておいたのだが、……ともかく、私の生活の第一歩だけは、これできまつた訳だ、それを書き忘れてゐたのだから、私もだいぶ修行が積んだやうだ、三八九最初の、そして最大のナンセンスとでもいひたいもの如件。

終電車重い響を残して帰つた
・星があつて男と女
・霙ふる、売らなきやならない花をならべる
・霙ふるポストへ投げこんだ無心状
・ぬかるみをきてぬかるみをかへる

不幸はたしかに人を反省せしめる、それが不幸の幸福だ、幸福な人はとかく躓づく、不幸はその人を立つて歩かせる!

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……へんてこな一夜だつた、……酔うて彼女を訪ねた、……そして、とう/\花園、ぢやない、野菜畑の墻を踰えてしまつた、今まで踰えないですんだのに、しかし早晩、踰える墻、踰えずにはすまされない墻だつたが、……もう仕方がない、踰えた責任を持つより外はない……それにしても女はやつぱり弱かつた。……


「三八九」は、「さんぱく」と読むらしい。

まだ土地も金も何もきまらないのに、もう庵号だけはきまつた、曰く、三八九庵(唐の超真和尚の三八九府に拠つたのである)。


1930(昭和5)年12月28日
十二月廿八日曇、雨、どしや降り、春日へ、そして熊本へ。

もう三八九日記としてもよいだらうと思ふ、水が一すぢに流れるやうに、私の生活もしづかにしめやかになつたから。――


「三八九」の意味が不明だったので
調べてみましたがネット上では不明


放浪の俳人 山頭火
講談社
村上 護

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上記の本によると
「三八九」とは「絶対」という意味らしい。

仏教関係の言葉らしく。

三八九を明らめずんば境に応じて所思多し
不明三八九 對境所思多


三」は「三日耳聾す」、「八」は「八祖・馬祖」 、「九」は「九祖・百丈」
この三字は「八祖便わち喝す。九祖此れに因って大悟し、直に三日、耳聾するを得たり」を略して数字だけを並べたものと解されます。


・・・理解不能。

空気時計的の解釈を捏造すると・・・

人の指は十本(十を人間ができうる最高とすると)
「八」も「九」もまだ完全ではない数=不完全
「三」は小さい数字でもちろん不完全

しかし「三八九」(さんぱく)となると
三を「一」と「二」に分け
「八」+「二」=「十」
「九」+「一」=「十」となり
人間ができうる最高が二重の揃うこととなる

山頭火だけでなく
様々な人が加わることで
生み出されるもの=「三八九」を目指したのである




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底本:「山頭火全集第三巻」春陽堂書店
1986(昭和61)年5月25日第1刷発行
1989(平成元)年3月20日第4刷
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:さくらんぼ
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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