安寧の日記(5/23)顧みる


詩が書けない時期は
自らの作品分の編集者になることにしています。

過去の作品を読み返してみたり
未完のシリーズを探してみたり。

そんな中から公開。
作品No.447

■トランプになるよ

バスルームで声がする 
俺はビールの栓を抜く
「さっき、言い忘れたんだけどさ・・・」
「何を。」


またバスルームで声がする 
俺はコップにビールを満たす
「若いパパの話よ。」
「ノブがまた何か言ったのか。」


湯沸し機が作動する 
俺は一気にビールを飲み干す
「あのね、ノブがさぁ
『姉ちゃん、その若いパパに枕買ってやれよ』って。」


俺の苦笑いがビールのせいなのか
ノブのせいなのか とにかく苦笑いする


「私にもビール残しといてんね。」
「今度から 俺 枕持参してくるよ。」


バスルームで笑い声がする 
俺は二杯目を飲み干す
「女は一杯目のビールと同じだってさ。」
「まあ失礼ね。二杯目も美味しいわよ。」


湯上りのあまえがやって来る 
ポテトチップスの袋を破る
「二杯目のビール、美味しいかな。」
「さあ坊や、お風呂に入ってらっしゃい。」


おまえは残りのビールをコップに満たす
ビンには もう一杯分残っている


バスタブに身を沈める・・・皮肉な広さ
一人では広すぎる 二人では狭すぎる


「着替え、ここに置いとくわよ。」
「・・・」


バスルームの外で影が動く
一瞬の錯覚・・・夫婦気取り?


「ねえ、聞いてるの。」
「あ、そこに置いといて。」


着替え 何のことだかわからず
とにかくお風呂を済ませる
「ねえ、もう一本飲む?」
「おまえも少し飲めよ。」


またバスルームの外で影が動く
かまわずバスルームを出る


「これ、パパが昔使っていたの。」
「いいのか、俺なんかが着て。」
おまえはコクンとうなづく
俺はパジャマを着る


「もう ビールはいいよ。明日も仕事だろう。」
「そうね もう寝ましょうか。」


おまえのパジャマ姿は
くるりと背中を見せて部屋に向かう
「枕はひとつでいいよ。」
「二杯目のビールはなしよ。」


このパジャマを着ているかぎり
俺はおまえのパパになろう・・・そう思う


「ねえ ひとつだけ教えて
 ノブも私も ひとりで生きていけるように
 もう肩を寄せ合わずに
 お互いに自由にならなければいけないの?」


このパジャマを着ているかぎり
俺はおまえのパパになろう・・・そう思う


「たった二枚だけで ささえ合っている
 そんな形で立っているトランプよりも
 52枚のトランプがいろんな形で
 ささえ合っていればいいのさ。」


パジャマが俺にそう言わせた
それがおまえのパパの願いだ


「ノブはトランプを見つけたわね。」
「俺もおまえのトランプになるよ。」


信実が形成される・・・枕はひとつ
それに腕枕が加わる・・・ノブの誤算


「もう おやすみ。明日も仕事だろう。」
「四月になれば あなたもよ。」


部屋の明かりを消す・・・俺は決心する
このパジャマにかけて


「トランプになるよ。」
「・・・」


おまえは もう 寝息をたてていた

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現実にはあり得なかった話だけれど
私鉄沿線の地下喫茶を主な舞台として描かれた連作のエピローグ的部分

原稿用紙200枚分の作品。

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